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保守王国分裂 いったい何が - NHK NEWS WEB

保守王国分裂 いったい何が

全国指折りの「保守王国」富山県。有権者に占める自民党員の割合は、全国1位だ。
そんな富山県で、2か月後に迫った知事選挙をめぐり、5期目を目指す現職と、自民党の参議院議員を姉に持つ新人が、自民党を割って、つばぜり合いを繰り広げている。「保守王国」で何が起きているのかを追った。
(桑原阿希、佐伯麻里、大石真由)

“民間の経営感覚を” 経済界の新田

2019年12月、知事選挙にいち早く名乗りを上げたのは、新田八朗(62)。

地元・富山県の日本海ガス元社長で、日本青年会議所の会頭も務めた。

祖父は富山県知事、姉は前の北海道知事で自民党参議院議員を務める高橋はるみだ。

企業人である新田自身も、地元政界に深く関わってきた。

富山市長の森雅志(68)とは昵懇で、後援会長を10年近く務めてきた。

ガス会社の社長として、地球温暖化の原因の1つとされるCO2を削減するため、ガスの原料を、石炭から、より環境負荷の低い液化天然ガス=LNGに転換。社員数百人のガス会社にとっては経営が傾きかねない多額の投資だったが、「環境問題は避けて通れない」として導入に踏み切った。

さらに再生可能エネルギーの提供も始めるなど、時代に合わせて組織を変革させてきた。その経験もいかし、行政にも民間の経営感覚を導入したいと訴える。

「スピード感のあるリーダーを。新型コロナ前にただ戻すのではなく、よりよく再建し、富山を変えていく」

「財政のプロ」 現知事の石井

新田の表明から半年。

現職、石井隆一(74)も、5期目を目指して立候補することを正式に表明。

新型コロナという未曽有の事態への対応には実績と経験が欠かせないと強調した。

「次の任期もやってもらったら、それなりに安心かなと評価してもらえるよう努力したい」

総務省の自治税務局長や消防庁長官などを経て、2004年に県知事に就任。

これまで4回の選挙では、自民党の推薦を得て相手候補を大差で退けてきた。

全国知事会では地方税財政常任委員会の委員長を務め、大都市に集中する税収の偏在是正を訴える。

「財政のプロフェッショナル」として、国や関係自治体と厳しい交渉に臨んできた。政策を熟知し、知事仲間からの信頼は厚い。

その存在感を示したエピソードがある。

県外からの移住促進に力を注ぐ富山県は、国の交付金を活用し、リノベーションした旧県職員住宅を使って移住者を呼び込む事業を進めようとしていた。

ところが、条件に当てはまらず、交付金を活用できないことが分かる。

そこで、霞が関に乗り込んで直談判、事業の必要性を訴えた。

知事会でも問題提起して国への提言に盛り込み、交付金の条件を変えさせたのだ。

県の幹部は「霞が関に長く身を置き、地方の現場を知らない“霞が関の限界”を知っているからこそ、大義を持って制度設計に疑問を突きつけられる」と語る。

富山での北陸新幹線の開業から5年余り。「大阪延伸の財源確保など知事として、まだやり残したことがある」と意欲を燃やす。

「保守王国」富山

富山県は「保守王国」だ。

衆議院では、自民党が政権を奪い返した2012年の選挙以降、自民党が県内3つの議席を独占している。3年前の選挙では、ほかの政党の候補者の比例復活も許さなかった。さらに、参議院も富山選挙区の2つの議席を自民党が独占。

県議会は、定数40人に対して自民党議員は34人で、その割合は実に85%。

そして、有権者に占める自民党員の割合は全国トップだ。

知事選挙を戦う上で、自民党の支援は欠かせない。石井と新田は、それぞれ自民党に推薦を求めた。

保守分裂 回避は失敗

近年、全国で「保守分裂」の選挙が相次いでいる。

2019年4月の統一地方選挙では、福井、島根、徳島、福岡の4県の知事選挙。最近では、徳島市長選挙、鹿児島県知事選挙でも保守どうしが争った。影響は深刻で、県議会の会派が分裂するなど混乱が続く県もある。

「保守分裂は絶対に避けたい」自民党富山県連が最優先事項として掲げたのが候補者の一本化だった。

しかし、それぞれ自民党に人脈を持つ2人から絞り込むのは簡単ではない。

果たして党が一丸となれるのは誰なのか。石井でも新田でもない「第3の候補者」を模索した。

白羽の矢が立てられたのは、県選出の参議院議員、野上浩太郎(53)。

安倍内閣で官房副長官を務めた若手の実力者だ。

「野上が出れば、2人は降りる」県連は一本化を期待して立候補を打診した。

しかし、「国政を貫きたい」と断られ、もくろみは外れた。

新幹線の開業や観光促進などで実績を上げてきた石井に傾く県連執行部。

これに対し、富山市長の森や党富山市連は、新田への支持を鮮明にし、対立が表面化することになる。

対立の背景には

知事の石井と、新田を支持する富山市長の森は、長年関係がぎくしゃくしていると指摘されてきた。

2019年6月、森は、4期目の今期で市長を退任し、政界から引退することを明らかにした。その記者会見で「もう僕らの時代じゃない。令和という新しい時代は新しいリーダーを担がないといけない」と発言。
富山政界では、同じく4期目の石井に向けられた発言だと受け取られた。

ことしに入って2人の反目が徐々に表面化していく。

新型コロナウイルスの感染者が富山県内で初めて確認された3月30日。県の緊急の記者会見が午後9時半から開かれた。

詰めかけたおよそ50人の報道関係者を前に報道資料を読み上げた石井。

記者から相次ぐ質問に「富山市から情報をいただいていない」と説明し、市に会見を開くよう求めたのに応じなかったと、市の対応を批判した。

翌日開かれた富山市の記者会見。森は開口一番、県への怒りをあらわにした。

「詳細が分かっていないにもかかわらず、昨夜知事が発表したことは極めて遺憾だ」

森は、感染者の行動歴など詳しく情報を集めてから会見を開くべきだと考えていた。

「知事は本当にパフォーマンスが過ぎる。非常に不信感を持っている」と、いらだちを隠さなかった。

推薦めぐり駆け引き

新田を支持する議員が多い富山市連を率いるのが、県議会議員の中川忠昭。

森とつながりが深く、県連幹事長や県議会議長も務めた重鎮だ。

県連が早々に石井への推薦を決めないよう、ことし5月、先手を打った。

富山市連所属の県議会議員、富山市議会議員に意見を聞いた結果、21人中19人が現職を支持していないとして、「現職以外の候補者」に推薦を出すよう県連に求めた。

そして、党員による投票で“公平に”選ぶようけん制したのだ。

これに対し、県連執行部は「市連の総意ではない」として、はねつける。

そして、県連所属の県議会議員34人に意向を確認することにした。方法は、無記名投票ではなく、幹部たちが直接聞き取るもの。新田に近い議員からは、“踏み絵”だと反発の声が上がった。

聞き取りの結果、石井が24人、新田が7人、執行部一任が3人。

県連は、多数を占めた石井に推薦を出すことを決めた。

幹事長の五十嵐務は推薦を決めた理由をこう説明した。

「新型コロナの大変厳しい時代に石井知事の経験がきっと県民のために役に立つ」

推薦が得られなかった新田は、報道陣から「保守分裂選挙を避けたいという声もあったが」と問われると、こう切り返した。

「(分裂を)避けたい人は104万人の県民に何人いるのでしょうか。新しい知事は“県民が決めるものだ”」

推薦が得られなくても立候補する考えを強調し、51年ぶりとなる「保守分裂」の知事選挙となることが、決定的になった。

一方、石井は「自民党の皆さんは、いろいろな意見があって、自由闊達に議論する、それはいいことではないでしょうか。同時にそういう懐の深さがありながら、いろいろな議論をとりまとめて、責任政党として方向を示してきた」と述べた。

つばぜり合い 激しく

推薦を得た石井は、県連の組織を使った団体回りを強化するなど、活動を活発化させている。

公明党県本部や国民民主党県連からも推薦を取り付けた。街頭での演説やミニ集会を繰り返す。

告示前の街頭での活動は異例のことで、関係者は「危機感の表れだ」と口をそろえる。

一方、富山市連の中川は、県連から常任総務の役職を当面停止する処分を受けたが、一部の富山市議会議員とともに、新田支援の動きを続けている。

森や、姉で参議院議員の高橋も何度も応援に駆けつける。
県内全域での知名度向上が必要だとして、各地でミニ集会や街頭での活動に力を入れる。

日本維新の会の県組織は、26日夜、新田を支援することを決めた。

“お家騒動”冷ややかに

この保守分裂を「自民党の中のお家騒動」と冷ややかに見ているのが共産党だ。
「石井知事と新田氏は、官僚型か経営者型かの違いしかなく基本は変わらない。コロナ禍で今後の県政はどうあるべきなのか、大事な問題が突きつけられている知事選挙になる。県民の命、暮らしを守るために、県民目線の県政を目指すために候補者を立てて戦う」
近く共産党などでつくる政治団体が候補者擁立を正式に発表する方針だ。

社民党は、対応を検討している。

県民置き去りにせずに

“自民党一強”の余裕なのか、保守王国・富山の変化の兆しなのか。

さまざまな思惑が生み出した保守分裂。県連の選考過程では、保守分裂ばかりが注目され、2人の訴えや政策の違いを吟味する機会は少なかったように感じる。

新型コロナウイルスの感染者は富山県内でも連日のように報告されている。多くの企業で売り上げが落ち込み、インバウンドを背景に好調を続けてきた観光業も苦境にあえいでいる。県民の暮らしや経済に深刻な影響が広がり、先が見通せない。

県政運営の担い手として長期的な視点に立った明確なビジョンが求められる知事。“ウイズコロナ”の時代に、経済をどう立て直し、地方創生を進めていくのか。政策の議論が活発に行われ、県民が置き去りにならない選挙戦を求めたい。

決戦は、2か月後の10月25日だ。

(文中敬称略)

富山局記者
桑原 阿希
2015年入局。警察担当、高岡支局を経て富山県政キャップ 。自民党県連の取材を担当。

富山局記者
佐伯 麻里
2016年入局。警察担当を経て富山県政と選挙事務局を担当。若手職員による投票率向上プロジェクトに参加。

富山局記者
大石 真由
2017年入局。警察担当を経て富山市政と経済を担当。 新型コロナの影響を取材。

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August 27, 2020 at 12:22PM
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