香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は4日、香港が緊急事態などに陥った際、行政長官に大きな権限を集中させる「緊急状況規則条例(緊急法)」を約50年ぶりに発動し、政府への抗議デモで参加者がマスクなどで顔を覆う行為を禁じる「覆面禁止法」を制定した。覆面禁止法は立法会(議会)の審議を経ず、5日に施行される。英植民地時代以来、香港が守ってきた法治主義を大きく損ねる事態といえ、香港の混迷は新たな局面に入った。
緊急法の発動は英国の植民地だった1967年の大規模暴動以来で、97年の中国返還後は初めて。
香港政府は4日、林鄭氏ら政府高官と親中派の有力者らでつくる行政会議(日本の閣議に相当)を緊急開催し、緊急法の発動と覆面禁止法の制定を決定した。
政府保安局はデモ参加者が顔を隠していることが警察の捜査を難しくし、暴力をエスカレートさせる要因になっていると説明。覆面禁止法で、無許可の集会やデモ活動に参加する際、マスクやゴーグルなどで顔を覆い個人の識別ができないようにすることを禁じた。
同法は5日午前0時に発効し、違反した場合、2万5千香港ドル(約34万円)以下の罰金や1年以下の禁錮刑に処せられる。
林鄭氏は記者会見で「ここ数日、デモ参加者の暴力行為は激しさを増し、公共の安全を脅かしている。法律の施行で暴力を抑制できると信じる」と語った。
政府は立法会向けの説明文書で、中国の建国70周年年の記念日だった1日、香港各地のデモが過激化し実弾6発を発射するような事態になったことが、今回の措置に踏み切る一因になったとした。
一方、民主派は今回の措置が「議会を無視するもので、法治主義の崩壊だ」と猛反発している。
1922年に制定された緊急法は、政府が緊急事態もしくは公共の安全に危害が及ぶ事態になったと判断した場合、行政長官が集会や報道の自由、通信や移動の自由など市民の権利や生活を幅広く制限することを認めるものだ。
林鄭氏は「(条例の発動は)香港が緊急事態に入ったことを意味するものではない」とする一方、「暴力行為が高まるようなら政府は次の措置も考える」と述べ、さらなる規制強化に含みを持たせた。(香港=益満雄一郎、宮嶋加菜子)
2019-10-04 10:38:00Z
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